第2章 幻想曲
やはり翔の住むアパートは、かなり古かった。
歩くとギシギシと音が鳴るし
1階だからまだいいけど、これが2階だったら
こんな深夜に帰ってきて、足音立てたら下の住人大迷惑だぞ。
翔もわかっているのか、静かに玄関を開け、そっと閉める。
部屋の電気器具は、昔なつかし紐を引っ張るタイプ。
カチッと音を鳴らし、電気をつけると部屋の中には、ほぼ何もなかった。
小さいテーブルと、部屋の隅に畳まれた布団。
キッチンと言うよりも、台所と言った方がしっくりくる場所に置かれてるのは、極々小さな冷蔵庫。
「すみません。
この時間に風呂は入れないので、本当に寝るだけなんですけど…」
翔が布団を敷きながら、ボーっと突っ立ってる俺に声を掛けた。
「あ、うん…寝るだけで大丈夫…」
「じゃあここで寝てください」
俺に、敷き終った布団を勧める。
「え?翔は?どこで寝るの?」
「この辺で適当に寝ます」
唯一あった小さなクッションを、布団から少し離れた所に置いた。
「被るものあるの?」
「冬じゃないんで、なくても大丈夫です」
「そんな…風邪引いたらどうするんだよ」
冬じゃないけど、夏でもないこの季節。
被るものがないなんて駄目だろ。
「引かないですよ。
智って、本当に心配症なんですね」
イヤイヤ、心配症じゃなくても心配するわ…
それに畳とはいえ、翔を床に寝せて俺だけ布団で寝るなんて…
「こっち来いよ」
「え?」
「狭いけど一緒に布団で寝よう?」
「え、でも…」
躊躇う翔の腕を掴んで立ち上がらせた。
「いいから来いって」
布団まで連れて来ると、かぶり布団を剥ぎその上に座らせた。
俺を見上げる翔の瞳は少し不安そう。
「心配するな。俺にそっちの趣味はない」
ニコッと笑うと、翔は珍しく顔を紅くして焦った。
「そっ、そんなこと心配してませんっ。
ただ、泊まってくださいって言っておきながら
こんな窮屈な思いさせるなんて…」