第1章 プレリュード
目を覚ますとバスローブを纏った潤が、ベッドの端に腰を掛け俺の髪を撫でていた。
俺が起きたことに気が付いた潤は優しい微笑みを浮かべる。
「大丈夫か?」
「ん、大丈夫…わざわざ起きるまで待ってなくても良いのに」
「そんな哀しいこと言うなよ…」
潤が眉毛を下げ寂しそうな表情を見せた。
俺は上半身を起こすと潤をじっと見た。
「何度も言ってるけど、俺とアナタは身体だけの関係だから…」
「翔…」
潤が俺の腕を引っ張り腕の中に抱きしめる。
俺は潤の胸に手をあて、腕を突っ張りその腕の中から逃げた。
「潤、俺は身体は売ったけど心は売ってない…いや、売れないって言ってるだろ?」
潤と出会った時の俺は、何もかもがどうもよかった。
『幸せにしてやる』
潤は俺にそう声を掛けてきた。
そんなこと、誰にも出来やしないのに…
俺の腕を掴み歩き出した潤。
逃げるのも億劫でされるがまま潤について行った。
不快に感じる行為さえ抵抗せずに受け入れた。
俺の身体を抱いて金をくれるのなら、身体を売るのは構わない。
でも、心は売れないんだ…俺には売る心がないから…
そう育てたのはあの人たちなのに…なのにあの人たちは今になって
『貴方の演奏には心が無いのよ…』
なんだよそれ…
心ってどこに行けば見つかるんだよ…
誰か俺に教えてくれよ…
『心』のある場所…