第11章 家路
ドキドキとなる智の鼓動…その鼓動を聞いてるだけで心が安らぐ。
智の手が優しく俺の頭を撫でた。
俺が最初に好きだと感じた智の手…
目を閉じてその感触に浸ってると涙が溢れてきた。
「泣いてるのか?」
智の声がした。
「ん…」
「相変わらずだな…」
「智が言ったんだよ?沢山泣かせてやるって」
「そうだったな…」
智の手が俺の頭をなで続けた。
「翔…」
智が優しく俺を呼ぶ…
「ん?」
「もうどこへも行くなよ?」
智の身体にギュッとしがみついた。
「うん…ずっとここにいる…」
智から贈られた、最高に幸せな贈り物…
世界へ行くことよりも、智の傍を選んだ俺の意思を尊重してくれた…
その言葉は何よりも嬉しいプレゼント。
優勝して、その事を松岡さんに伝えた時、凄く驚いた顔をされた。
『世界のステージよりもあの店を選ぶのか?』って。
だから俺は言ったんだ『あの店を選んだわけじゃない、あそこには智が居るから…俺は智の為だけに弾くんだ』って。
そしたら松岡さんは『大野さんはどんだけお前を我が儘に育てたんだ』って苦笑いされた。
智と一緒にいると、自然と自分の思いを吐き出せたんだ。
間違ってることは優しく諭してくれたし、甘えたい時はこれでもかってくらい甘やかしてくれるから…
だから思ったことをなんでも口に出来た。
それが松岡さんからすれば『我が儘』ってことなんだろうけど…
それでも松岡さんが最後に『いい人に出逢えたな』って言ってくれたから、俺は『うんっ!』って大きく頷いた。
「智…」
「ん?」
顔をあげ智の方を見た。
「まだ一日分も抱いて貰ってないよ?」
「ははっ、そっか…今日は半年分だもんな」
「うん」
智はクルリと身体を反転させ俺を組敷くと、優しいキスをくれた。
唇が離れると微笑みを浮かべ、慈愛に満ちた瞳で見つめてくれる。
「おかえり、翔…」
「ただいま…智…」
智の愛が、月の光のように優しく俺の全てを包み込む…
智の腕の中が俺の帰る場所…
End