第10章 別れの曲
翔が家に来てから一年が経った。
「翔?風呂行くぞ?立てるか?」
うつ伏せてベッドに両肘をつき、気だるそうに身体を支える翔。
「大丈夫か?」
「…大丈夫じゃない…智が激しくするから」
恨みがましく俺を見上げる。
「…ごめん」
「じゃあ、抱っこしてくれる?」
「いいよ、ほら来い」
両手を広げてベッドの横に立つと、翔は頬を膨らませた。
「それじゃない…」
「しょうがねぇなぁ…」
「しょうがない?」
「いや、喜んで」
「ふふっ、よろしく」
ベッドの上にいる翔をお姫様抱っこすると
翔は嬉しそうに微笑みながら、俺の首に腕を回した。
この一年でほんとに甘え上手と言うか、想いを素直に出せるようになったよなぁ。
まぁ、俺に対してだけなんだけど…
そんな翔が可愛くて、ついつい俺も甘やかしちゃう。
「あれ、お前太った?」
「ん~、太ったかも。智の作るご飯が美味しいからね」
「もっとカロリー控え目な献立にするか」
「え~いいよ、今のままで」
「これ以上重くなったら、お前のこと抱いて運べなくなるぞ?
俺の体力は衰えていくんだから」
「それもヤダ…」
「じゃあ、これ以上太らないことだな」
「智が鍛えればいいじゃん」
「お前~」
「嘘だよ。智に嫌われたくないからね、太らないように頑張ります」
「太ったくらいじゃ嫌わないけどな」
「うん。知ってる」
翔は腕に力を込め、俺の頬に唇を寄せるとチュッと音を立てキスをした。
「誘ってんの?」
「ふふっ、今日はもう無理だよ」
そう言いながらも風呂場で一戦交わしてくれたんだけどな。