第9章 愛の夢
「智、お店の鍵貸してくれる?」
「え、もう行くのか?早くね?」
「うん。昨日弾いてても全然納得いかなかったから
今日はしっかり練習しようと思って」
本当はニノさんに相談に乗って貰うためなんだけど。
「じゃあ俺も行こうかなぁ」
昨日も一緒に練習に行ってくれた智。
でも…
「今日は駄目だよ。ベッドが届くじゃん」
「あ、そうだった…」
良かった予定が入ってて…
智にピアノ聴いて貰えるのは嬉しいけど、今日だけは一緒に行かれたら困る。
「ほら、鍵。気を付けて行けよ」
手のひらに鍵を乗せられ、頭を撫でられた。
「智ってほんと心配症だね。
あまり心配ばっかりしてると禿げるよ?」
「余計なお世話」
苦笑いをする智に『いってきます』と声を掛け家を出た。
店に着くとニノさんはまだ来ていなかったから
ピアノを弾きながら待っていた。
基礎的な練習曲から始め、智の好きな『月の光』を弾いているところでニノさんが来た。
「おはようございます」
手を止め、ニノさんに挨拶をした。
「おはよう。ほんといい演奏するようになったね」
「ありがとうございます」
「智のおかげ、かな?」
ニコッと笑うニノさん。
やっぱりわかってるんだ。
俺は首を縦に振った。
ニノさんは椅子をひとつ掴み、俺の隣に座った。
「話って、智のことでしょ?」
「…はい」
そう言われ、話す前から顔が熱くなる。