第8章 カノン
その翌日、翔の演奏に聴き惚れていると相葉さんが来店した。
「いらっしゃいませ…」
「こんばんは、マスター。
ピアノ弾いてるのマスターじゃないんですね」
ニノが応対すると、ピアノの方を見た相葉さん。
そして席に着くなり、嬉しそうにニノに聞いた。
「ねぇマスター。あのピアノ弾いてる人、翔くんですよね?」
薄暗い店内、しかもここからだと、ほぼ後ろ姿しか見えない。
「そうですよ」
「へぇ~、翔くんもピアノ弾けるんだぁ。
しかもスッゴく上手い」
「ええ、そうですね。プロ並みです」
「凄いなぁ、翔くん…」
感心しながら翔の後ろ姿を見つめている。
「今日は何飲まれます?
翔は手が離せないので、私がお作りしますけど、よろしいですか?」
「勿論!翔くんの作るカクテルもいいけど、今はピアノの演奏を聴いていたい。
マスター、ドライマティーニお願いします」
「畏まりました…」
ニノが会釈をしカクテルを作りはじめると
相葉さんは完全に翔の方に体を向け、演奏を聴きはじめた。
その瞳は優しくて、愛しい者に向けられる眼差し…
ちょっと前だったら『この人に愛される人は幸せになれる』って思っていたけど
今の俺には強敵としか思えない存在…
どんなにいい人相手でも、譲れないモノがあるって事、はじめて知ったよ。
俺も翔と出会ってから、色々な事教えられてんなぁ…