第7章 愛の挨拶
店がオープンすると、すぐに翔はピアノの演奏をはじめた。
俺が好きだと言った『月の光』を皮切りに、次々と違う曲が奏でられていく。
『今日は初見だから、上手く弾けるかわからない』なんて言いながらピアノに向かって行ったけど
俺からすれば、どんなに楽譜を見ようとも、永遠に出来ねぇレベルの演奏だよ。
数曲弾いた後、翔がカウンターに戻ってきた。
「お疲れ…」
「やっぱりまだ駄目だね、指が鈍ってる。
初見とはいえ、本来なら人様の前で演奏するようなレベルじゃないよ」
翔は苦笑し、自分の指見ながら握ったり開いたりを繰り返している。
「そうか?俺には全くわからん。
どれも良かったぞ?」
「智にそう言って貰えるのは嬉しいけど
聴いて貰うなら、自分で納得出来る演奏を聴かせたいな」
「んじゃ、楽しみに待たせて貰うとするか
翔が納得する演奏」
「うん。待っててね?
これから沢山弾いて、いつか智の為に最高の演奏するから」
すぐ横に立つ翔が、俺の方を向き屈託のない笑顔を見せる。
出会ったときには無表情に近かったお前が、こんなにも眩しいくらいに輝かしい笑顔を見せてくれるとはな。
希望溢れるキラキラとしたその瞳で、俺の事を見つめ続けてくれるなら
いつまででも待つさ…翔が俺のために弾ひてくれる最高の演奏。