第33章 我が儘(武田信玄) ※閲覧注意
信玄「げほ・・・ごほ・・・」
交わりの後、信玄は咳を懸命にこらえていた。
隣で眠る最愛の女に気づかれないように・・・
その手には赤い血が、
べっとりとこびりついていた。
信玄「・・・もうすぐか・・・」
信玄は自身に時間が、
あまり残されていないことを感じていた。
病に侵されてからだいぶ時間がたっている。
今更未練などない。
ただ残された幸村や甲斐の民、
そして隣で眠る彼女のことが気がかりでないかと、
そう聞かれたら嘘になる。
幸村や甲斐の民、忍・・・
皆自分がいなくなってもいずれ、
何事もなかったかのように時は進むだろう。
だから心配する必要はないだろう。
だが心のどこかで自分を忘れないでほしい、
自分の生きた証が欲しいと、
そう思っているのも事実だった。
忍のナカに子種を放出するその行いが、
許されないことであるのを知りながら、
そうしたのも愛した証が欲しかったからだ・・・
謙信でも幸村でもいい。
自分はそばにいられない。
仕方ないから俺の最愛はくれてやる。
だから俺の最期の我が儘だけは許してくれ・・・
手に付着した血を眺めながら、
将来彼女の隣に立つ誰か分からぬ男に、
そんなことを信玄は思うのだった。