第4章 【運命の人】
「少しの辛抱だからな、漏れ鍋に着いたらすぐ放してやる」
そう言ってかご越しにネサラの頭をなでると、ネサラは気持ちよさそうに目をつぶった。それを見て、クリスもふっと笑みをこぼした。この屋敷の中で、唯一の友達と呼べるのはネサラだけだ。
「それじゃあチャンドラー、1年後まで達者でな」
「お嬢さま、もし足りない物がありましたら、なんなりとお申し付けください。そしてグレイン家に恥じない様心がけ、ドラコ様とも仲睦まじく過ごし――」
「あー、煩い!漏れ鍋!!」
クリスは煙突飛行粉をひとつかみ掴むと、それを暖炉の炎の中に投げた。暖炉の炎がエメラルド・グリーンになったのを確認してから、クリスはその炎の中に飛び込んでいった。暖かい炎の中を進んでいくと、いつもの漏れ鍋の暖炉にたどりついた。
* * *
漏れ鍋にはいろいろな客がいて、ざわついていた。その中でも特にロンとハーマイオニーの口喧嘩が激しく店内に響いていた。
ロンは大事そうにスキャバーズを胸のポケットに入れ両手で包み込んでいたし、ハーマイオニーの腕には赤毛で、顔面をハンマーで叩かれたようなつぶれた顔の猫が抱かれていた。
「いい加減その物騒な猫を部屋に戻せよ!スキャバーズがおびえて可哀相だろう!」
「なによ!クルックシャンクスはちょっとお腹が減っているだけよ。お腹がいっぱいになればそんな汚れたネズミ見向きもしませんからね」
「なるほど、喧嘩原因はそれか」
「「あっ、クリス!!」」
2人は一斉にクリスの方を向いた。喧嘩しながらも、変な所で息ピッタリだから面白い。2人はお互いにペットを大事そうに抱えながらクリスに向かって大声でまくし立てた。
「聞いてくれよクリス!ハーマイオニーってば、そんな物騒な猫を買ったんだぜ!しかもそいつさっきは僕の頭の上に乗って、頭の皮を剥ごうとしたんだ!!」
「そんな事ないわ、たまたま着地したとことがロンの頭の上だっただけよ。ねえクリス、この子すっごく可愛いと思わない?」
「可愛いかどうかはさて置き……まあ、ネズミを追いかけるのは猫の性分だしなあ」
クリスがどっちつかずの意見を出したら、2人はまた勝手に言い争いを始めた。それを眺めていると、後ろからポン、と肩をたたかれた。ハリーだ。