第34章 【新たなる出会い】
「先生の言う事を聞かないなんて、全く困った生徒だなあ。――クリス、これは決して別れじゃない。新たな出会いの形なんだよ」
「新たな……出会い?」
「そう、これは先生と生徒ではなく、リーマス・ルーピンとクリス・グレインという一個人の出会いなんだ。だからそう泣く事じゃないんだ。分かってくれるね」
クリスはなんて言って良いか分からず、ただコクンと頷いた。納得なんて出来なかったが、これ以上先生を困らせても意味がない。そう思ったからだ。
ルーピン先生は瞼に浮かぶ涙を静かに唇で受け止めると、再びクリスを優しく抱きしめてくれた。ずっとこのままでいたい――しかしバタバタと足音が聞こえて来たと思ったら、ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人が飛び込んできた。と、同時に先生はクリスを離した。
「やあ、3人とももうすっかり元気だね」
「先生!僕達からもお願いです!!学校を辞めないでください!」
「やれやれ、ここにも困った生徒達が3人もいる」
先生は目を細め、まとめてあった荷物を整理しながら、ある物を取り出した。
「本当は渡そうかどうしようか迷ったんだけどね」
そう言って、ハリーに『忍びの地図』を手渡した。
「これは先生ではなく、リーマス・ルーピン個人として君に渡そう」
「先生……良いんですか?本当に?」
「私はもう先生じゃない。それに、ジェームズだったら、自分の息子が城の抜け道の1つも知らずに卒業したら大いにガッカリするだろうしね」
先生は茶目っ気たっぷりにウィンクすると、最後に机の上に積んであった本の束をトランクに押し込んだ。
「さあ、もう馬車が来る頃だ。それじゃあ皆、また会える日まで」
最後にそう言って、ルーピン先生は学校を去っていった。それはあたかも初夏の風の様に、そっと爽やかな香りと共に――。