第33章 【月夜の晩】
目をこらすと、反対岸にいるハリー、ハーマイオニー、そしてシリウスがディメンターに襲われているのが見えた。このままでは皆ディメンターの餌食になってしまう。しかし、クリスはディメンターと戦う術を知らないし、戦う術を知っていたとしても、今の状況では動くことも出来ない。
ディメンターはどんどん数を増やし、少なくとも100体以上はいる様に見えた。そしてやがて湖畔の反対側だけでなく、クリス達の方にもディメンターの魔の手が襲って来た。
するとコンパートメントでディメンターと出会った時と同じく、身体は凍り付くほど寒いのに、左手首だけは焼き鏝をあてられたように痛みと熱がはしった。
このまま死んでしまう、そう思った時、湖畔よりもっと奥、木と木の間から人影が見えた。正しく言えば、見えたような気がした、と言った方が正解だろう。それ位クリスとその人との間には距離があった。
そしてその人の杖から銀色に輝く大きな動物が出てくると、ディメンター達が散り散りになって逃げていった。それを見て安心したのか、クリスは意識を手放した。
* * *
暗い、上下の間隔も無い不思議な空間にクリスの体は漂っていた。
ああ、またあの夢だ。水の中に居るかの如く、重力を感じず漂っている。ふと、またしても自分自身が目の前に居るのをクリスは見た。しかし今度は鏡合わせの様に動くのではなく、もう1人のクリスが、目深にかぶっていたローブをゆっくりとめくった。その顔は――
「何故?何故お前なんだ!?トム・リドル!!」
――黒い髪、色素の薄い肌、赤い瞳、そして見るものをぞっとさせる笑み。クリスは絶望に打ちひしがれた。しかもリドルは1年前に記憶として現れた5年生の姿ではなく、クリスとちょうど同じ、まだ幼さの残る3年生の姿をしていた。
「まだ分からないのかい?これは、君が心の中で1番恐れている事――そして1番確信してる事だろう?その証拠に、ほら……」
リドルはスッと手で顔を隠すと、次の瞬間、クリスと全く同じ顔になった。それを見て、クリスは全身の毛が逆立つほどゾクッとした。