第33章 【月夜の晩】
(まだだ……まだ早い)
じりじりと間をつめ、一瞬の隙も見逃さない構えを見せた。心臓が煩いほど鳴り響いている。手は震え、汗がじっとりかき始めていた。クリスは自分自身に言い聞かせた。
(まだ……ぎりぎりまで待つんだ)
クリスは杖を振り上げると、先生は一直線に飛びかかって来た――今だっ!!
「アクシオ!岩よ来いっ!!」
クリスが先生の真後ろにある巨大な岩に向かって呪文を唱えると、巨大な岩が真っ直ぐ飛んできて、ルーピン先生の後頭部に見事直撃した。
先生はクリスに噛みつこうとしていたらしく、牙をむいたままクリスの体の上にドシンと乗っかってきた。必死になってその体から這い出ると、クリスはフーッと息を吐いた。こんなに緊張したのはいつ以来だろう。
「とにかく、これで安全だな。後はハリー達と合流しなければ……」
クリスがルーピン先生から身を離した時、背後から「グルルル……」といいう唸り声が聞こえた。まさかと思って振り返ると、狼と化した先生が、クリスに向かってその鋭い爪で襲い掛かってくるところだった。
間一髪、クリスは何とかその爪を避けたが、少々かすってしまい、二の腕に痛みと熱が襲って来た。しかし次の瞬間、それ以上の痛みがクリスを襲った。
鋭い爪を避けようとして、クリスはバランスを失い、崖を待っ逆さまに落っこちたのだ。いったい自分の体がどうなっているのかも分からない。ただ、全身至る所にはしる痛みと、転がり落ちていく感覚とが永遠と思えるほど続いた。そして最後に地面が強く体を打ち付けると、クリスは体を投げ出した。
(……こ、ここは?)
クリスは動けない体をなんとかしようとしたが、如何せん全く動かなかった。唯一動く首だけで周りを見渡すと、どうやら湖畔に落っこちたようだった。細かい砂利と湿った冷たい空気がクリスの体を蝕む。
だがおかしい、いくら湖畔と言っても寒い、寒すぎる。よく見ると、湖畔の反対岸から見た事も無い数のディメンターが襲ってきているではないか。