第33章 【月夜の晩】
「シリウス!大変だ!ピーター・ペディグリューが逃げた!!」
それまで、お互いもつれ合い、転がり合いながら健闘していたシリウスだったが、ハリーの声を聞いてピーターの逃げていった方に走って行った。
遠目から見たルーピン先生は傷だらけで、壮絶な戦いがあった事が見ただけで分かった。クリス達の方にやって来るかと思ったが、ジッとクリス達を見ると、傷だらけの格好のままルーピン先生は別の方向へと走って行った。
とにかく難は逃れた。ハリー達は急いでロンの傍によると、ロンは目を半開きにし、口から微かに息をしているのが分かるが、危険な状態だと思った。早く医務室に運ばないと――その時、クリスの脳裏にあることがよぎった。
グズミードへの方角、そう、ルーピン先生が向かった先にあるのは、紛れもないホグズミードだ!!先生は、たった4人の子供よりも大勢の人間を餌食にしようとホグズミードへ走って行ったのだ。
それが分かった途端、クリスは先生を追いかけて走り出した。後ろからハリーとハーマイオニーが叫ぶ声が聞こえたが、気にしていられなかった。きっとホグズミードなんかに行って、誰かを傷つけたら、先生が1番傷つく。だって先生は――先生は誰よりも優しい人だから。
クリスは走った。それこそ心臓がねじ切れるくらい走った。後の事なんて考えていない、ただ先生を助けたかった。その思いだけで走り切った。そしてやっと先生の姿を見付けると、ひときわ甲高い指笛を吹いた。
すると指笛に反応したのか、狼男に変身したルーピン先生がぴくっと耳を動かし、こちらを向いた。今だ!!
「こっちです!先生っ!!」
ルーピン先生の意識がホグズミードではなく、クリスの方に向いたと分かると、クリスは全速力で今来た道を戻って行った。しかし、クリスの鈍足と狼男になったルーピン先生の足とでは決定的にスピードに差がある。
徐々に差が詰まっていき、クリスは森の中へと逃げた。森の中では木が鬱蒼と茂っており、狼に変身したルーピン先生は思うようには動けない筈だ。どこ姿を眩ませて、精霊を召還するだけの時間を稼げれば……。