第33章 【月夜の晩】
「危険だわ!ルーピン先生、今日はあの薬を飲んでいないはずよ!!」
ハーマイオニーが叫んだ。最悪の事態がクリス達の頭の中を駆け巡る。シリウスは咄嗟に3人を城の方へ押しやった。
「逃げろ!とにかく急げ!!」
しかしハリーは動かなかった。それどころか、ロンを助けに行こうとシリウスの制止を無視しようとしている。シリウスは怒ったように声を荒げた。
「私に任せて逃げるんだ!!」
それは見るも恐ろしい光景だった。あの柔和なルーピン先生の顔が伸び、口は裂け、鋭い牙が生ええてきた。それから背中が盛り上がり、全身至る所に毛が生え、手足の先が丸まり、そこから太い鉤爪が生えた。先生は月明りを背に、大きく唸り声を上げた。――絶体絶命のピンチだ。
狼男になったルーピン先生に、ロンが襲われそうになった、その時、脇から黒い影が突進してきた。シリウスだ!
変身したシリウスがロンを助け、何とか皆から引き離そうと首の後ろに食らいついた。しかしルーピン先生も負けてはいない。鋭い鉤爪でシリウスの脇を引き裂くと、首筋を狙って攻撃してきた。それをシリウスは同じように牙と牙をガッチリ合わせる事で防いだ。
壮絶な戦いに、クリスは目を奪われてしまった。お互いの体から鉤爪で引っ掻いた血が噴き出し、唸り声を上げて校庭を転がっている。その時、ハーマイオニーが現実に引き戻してくれた。
「ハリー!クリス!大変よ!」
シリウスがルーピン先生を引き離したことを良い事に、ピーターがルーピン先生の杖に飛びついていた。やはり改心などしていなかった。
クリスは怒りに燃えた。あの時殺しておけば――しかしもう遅かった。バン!という音と閃光が奔り、ロンが転倒した。そしてもう1度同じ音がして、クルックシャンクスが一瞬宙に浮かび、地面に落ちて動かなくなった。
「エクスペリアームズ!!」
ハリーがピーターに杖を向け叫んだ。しかし遅かった。杖はハリーの手元に収まったが、ピーターは変身して、みるみる小さくなり、締め付けられていた縄から抜け出し、拘束していた手錠の輪からシュッとかいくぐって校庭の芝生の上を脱走していった。