第33章 【月夜の晩】
「もちろん君が叔父さん、叔母さんの家を離れたくない気持ちは良く分かる。だけどハリー、少しで良い、考えてくれないか?もし私の身が無罪だと証明されて、自由の身になったら――その時は……」
「もしかして、貴方と暮らすの!?」
「いや、無理にとは言わない。ただ、もし君さえ良ければ、だが……」
「僕、僕は大賛成です!!出来るなら今すぐにでも引っ越したいくらいです!住む家はありますか?僕、お金ならいっぱい持っています!!」
ハリーは喜びで溢れんばかりの笑顔を見せた。しかしハリーよりも、シリウスの方が喜んでいる様だった。ハリーの言葉を聞いて、信じられないほどの笑顔を見せた。
それはまるで死人の様だったシリウスの顔が、生気にあふれ10歳ほど若返った様だった。シリウスは今ここで振り返り、ハリーを抱きしめそうになるのを必死に堪えている様にクリスには見えた。
「本当かい?本当に私と暮らしたいと思ってくれるのか?」
「本当です!僕、ダーズリー達なんかより貴方と一緒に暮らしたいです!!」
ハリーの言葉に、シリウスは感激のあまり、宙に浮かぶスネイプが頭をゴリゴリ擦っている事なんて忘れて、瞳を輝かせた。クリスはこっそりハリーに耳打ちした。
「良かったな、ハリー」
「うんっ!」
それから皆、会話らしい会話をしなかった。と、言うより必要が無かった。6人の心は1つだった。こんな心がスッとする日は、滅多にあるもんじゃない。
先頭を歩いていたクルックシャンクスが『暴れ柳』のコブを押してくれたおかげで、怪我も無く無事外に出ることが出来た。
外は真っ暗だった。ハリーとクリスとハーマイオニーは杖明かりで辺りを照らした。城の明かりが遠くの方で輝いているのが見える。杖明かりだけを頼りに、皆黙って校庭を歩いた。
徐々に城に近づいていく――あと少し。あと少しで全ての方がつく。そうすればシリウスは晴れて自由の身だ。ハリーに、新しい家族が出来る。こんな幸福な事ってない、そう思っていた。その時――雲が切れ、明るい月の光が皆を照らした。
「あ、あああぁぁ……」
ロンの震える声が聞こえた。ピーターを挟んで一緒に繋がれていたルーピン先生が硬直して、月明りを浴びている。シリウスが庇う様に片手をあげ、後ろを歩いていたハリーとクリスとハーマイオニーを立ち止まらせた。