第32章 【幕引き】
「その子の前でそれ以上言ってみろ!!今ここで殺してでもその口を封じるぞっ!!」
クリスには何の事か分からなかったが、ブラックが突然叫んだ。皆の目がクリスに集まった。クリスはどうしていいのか分からず、ただ戸惑うばかりだった。
「ブラック――いや、シリウス……いったい何の事を言っているんだ?」
「……事情は後で教えよう。だがまずはこいつを殺るのが先だ」
ブラックは杖をピタリとピーターの眉間に当てた。ピーターはガタガタ震え、今度はハリーに向かって命乞いをした。
「ハリー、ハリー……君なら私を許してくれるだろう?君はジェームズそっくりだ」
「貴様!!どの面下げてハリーに話しかけているんだっ!!それもジェームズの名前まで出してっ!!!」
「ハリー……お願いだハリー。ジェームズなら私が殺される事を望まなかったはずだ。ジェームズなら分かってくれた……私に情けをかけてくれた……」
ブチ切れたブラックとルーピン先生がピーターの肩を掴むと、ハリーの足元から引っぺがし床に叩きつけた。ピーターは床に転がると、ヒーヒー言いながら身を丸くした。もう同情の余地はない。その場にいた全員がピーターを敵とみなしていた。
こいつがハリーの両親を死に追いやった。そう思うだけでクリスの心の奥から嫌悪感が湧いてきた。ピーターは尚も激しく泣き始めた。
「シリウス……シリウス……私に何が出来たって言うんだ?君には分からないだろう……当時闇の帝王がどれほどの力を持っていたか……優秀な君には分かるはずない……私はただ怖かっただけだ。私にはジェームズ達の様な才能も無い。私はやろうと思ってやった訳じゃない、『例のあの人』が無理矢理――」
「嘘を吐くな!!お前はジェームズとリリーが死ぬ1年以上前からヴォルデモートと密通していた!!お前がスパイだった!!」
シリウスがこれ以上ないと言うほど大声を出して叫んだ。その声に気圧され、ピーターは一瞬ビクッと大きく体を震わせ、またむせび泣き始めた。
「あのお方は、ありとあらゆる全てを掌握していた――そんな人に立ち向かって、何が得られたと言うんだ!?」
「それは罪もない人々の命だ、ピーター!」
「分かってくれ、シリウス!でなければ私が殺されていた!!」
「ならば死ねばよかったんだっ!!!」