第32章 【幕引き】
まるで変身した巨大な犬の様に、シリウスが吼えた。クリス達4人はその声に体を震わせた。
「友を裏切るくらいなら死ぬべきだった!!私達も君の為にそうしただろう!!」
ピーターはもう何も言えなかった。ただ涙を流し、床にはいつくばっていた。ブラックとルーピン先生が目配せして、同時に杖を振り上げた。
「先に気づくべきだったよ、ピーター。ヴォルデモートが君を殺さなければ、私達が君を殺していたと」
いつもの優しい声ではなく、ルーピン先生が冷たい声で言った。それでもなお、先生の顔は笑ったままだった。
「お別れだ、ピーター……」
二人の杖が振り下ろされるのが、まるでスローモーションの様にゆっくり見えた。そして――
「――駄目だ!!」
まさに杖がピーターを捉えようとしたその瞬間、ハリーがピーターを庇う様に立ち塞がり、2人に向かって両手を広げた。ブラックとルーピン先生は直前で杖を止め、驚いた眼でハリーを見ている。
「ハリー……分かっているのかい?こいつの所為で君の両親は亡くなったんだぞ?それなのに庇うだなんて――」
「分かってる」
ハリーの目はまだ迷っているようだったが、体はピーターの前から立ち退くことは無かった。ハリーは静かに言った。
「こいつを城に連れて行こう。そしてディメンターに引き渡すんだ。こいつはアズカバン送りにする」
「ハリー!おぉ、ありがとうハリー、やはり君は――」
「放せっ!!」
ハリーのローブに掴まって頭を垂れるピーターに、ハリーは汚らわしい物を払いのける様に蹴とばした。
「お前の為じゃない。僕の父さんの親友が、お前なんかの為に殺人者になるのが許せなかっただけだ」
ハリーはきっぱりと言った。他の誰もが、口を開くことが出来なかった。ただピーターが顔を覆い隠し、ヒーヒーと荒い呼吸をしている音だけが部屋に響いた。
「やっぱり君はジェームズとリリーの子だ」
ややあって、ルーピン先生がいつもの優しい声でそう言った。まるで授業でハリーが正解を答えた時の様な穏やかな声だった。
「分かったよハリー。だが、そこを退いてくれるかい?別に殺したりはしない。ただ縛り上げるだけだ」
ハリーは一瞬ためらったが、いつもの優しいルーピン先生の顔を見て1歩横にずれた。するとルーピン先生は約束通り杖から紐を出してピーターを縛った。