第30章 【在りし日の思い出】
その時、ドアが1人でに開き、背後で大きく床がきしむ音がした。ルーピン先生は咄嗟にドアの方に目をやり、急いで踊り場に行って辺りを見回した。しかし、誰もいない。
「やっぱり、ここは呪われているんだ」
「いや、呪われてなんかいない」
ルーピン先生は扉を閉め、静かに言った。その表情は、まるで何か喉に物が詰まったような、苦々しさを思わせた。何か嫌な思い出を蒸し返そうとしている、そんな感じだった。
「『叫びの屋敷』から聞こえてきた悲鳴や騒音はゴーストのものではない。それは――紛れもない、私が起こしたものだ……」
「えっ?」と小さくクリスが声を上げた。他の3人も同じように驚きの表情を隠し切れないでいる。ルーピン先生はそんな事お構いなしに、軽くため息を吐くと、目を伏せ、昔を思い出す様に語った。
「話しを戻そう。そう、全ては私が狼人間になった事から始まった――。私が狼人間になったのは、私がまだ小さいころだった。両親はあれこれ手を尽くしたが、あの頃はまだ治療法が無かった。スネイプ先生が私に作って下さった『脱狼薬』は最近開発されたものでね。あの薬を飲めば、私は無害な狼でいられる。満月の晩の一週間前からあれを飲み続けさえすれば、姿は狼のままでも理性を保った大人しい狼でいられるんだ。そして再び月が欠け始まるのを待つ」
そう言えば、ハリーが前に、ルーピン先生の事務所を訪れた時、スネイプが薬をもって来たと言っていた。それにクリスマスの日、ダンブルドアもスネイプに薬を煎じたかと訊ねていたのも記憶にある。そうか、あれは『脱狼薬』の事をさしていたのか。ルーピン先生はなおも話を進めた。
「トリカブト系の『脱狼薬』が開発されるまで、私は月に一度、完全な狼になり果てた。両親はもちろん、私自身もホグワーツに入学するのは無理だと諦めていた。誰だって、自分の子供を狼人間などと一緒に暮らさせたくはないだろうからね」
再び、ルーピン先生は寂しそうな傷ついた顔をした。クリスは事の真相を知りたいのに、これ以上先生に悲しい思いをさせるのは嫌だった。口を挟もうとしたが、ハーマイオニーが「しっ!」と言って口を挟むのを拒ませた。クリスは仕方なく黙っていた。