第30章 【在りし日の思い出】
スキャバーズは相変わらずキーキー喚きながら、ロンの手から逃れようと噛みついたり引っ掻いたりしている。クリスにはもう何が何だかわからなかった。誰の言葉を信じて良いのか、誰の行動を信じて良いのか。
「皆、全てを知る権利があるんだ!力だけでは、皆納得しない!!」
ルーピン先生が息を切らしながら言った。そうだ、ここにいる全員が納得するだけの説明が欲しいとクリスは思った。でなければブラックを完全に信用する事は出来ない。
「ロンはあいつを長年ペットとして飼っていた。私にもまだ納得出来ていない部分もある!それにシリウス、君はハリーに、全てを話す義務があるだろう!!」
「――分かった、それなら良いだろう」
そこまで言うと、やっとブラックはスキャバーズを捕らえようとするのをやめた。しかし窪んだ眼の奥で、今にも射殺しそうなほど瞳をギラかせてスキャバーズを睨みつけていた。ロンはその瞳に怯え、ブラックからジリジリと距離を取った。しかし、それをルーピン先生が許さなかった。
「待つんだ、ロン。君は動いちゃいけない。ピーターを捕まえたまま我々の手の届く範囲に居て欲しい」
「ピーターじゃない!!こいつはスキャバーズだっ!!」
ロンはキレて、折れていない方の足で立ち上がると、どうにかして部屋を出ようとした。だが、直ぐにルーピン先生が近寄り、ロンの体を突き飛ばしてベッドの方に戻した。
「君はここに居て、ピーターを押さえていてくれ。そうすれば悪い様にはしない」
「だからこいつはピーターじゃなくてスキャバーズだって、何回言えば分かるんだ!!」
「いいや、こいつはピーターだ!正直言って私だってまだ混乱しているんだ。しかし『忍びの地図』は嘘はつかない!」
ロンはへなへなと力なく倒れてルーピン先生を仰ぎ見た。ルーピン先生はロンが落ち着いた見ると、一呼吸おいてから話し始めた。
「ピーターがスキャバーズだという理由は、『忍びの地図』以外にも沢山ある――そう、あれはまだ私が学生の時だった。ピーターがネズミに変身した姿を何度も見た……そう、何度も何度もね。友を……かつて友だった者を私が見間違えるはずがないんだ」
「その話をするつもりなら、手短に済ませてくれ、リーマス」
「分かっているよ、シリウス。そう、全ては私が狼人間に噛まれたところから始まった――」