第30章 【在りし日の思い出】
「コイツは『ワームテール』。本名はピーター・ペディグリューという『アニメ―ガス』だ」
沈黙、そう、完全なる沈黙が続いた。みんなルーピン先生の発言が信じられず、押し黙ったままだ。ある訳がない。12年間だ。12年間も1人の人間が完璧にネズミとして人間に飼われていたなんて。
「……あり得ない」
沈黙を破り、ロンが4人の言葉を代表するように言った。
「頭がどうかしてるんだ……」
「そうよ、スキャバーズがピーター・ペディグリューだなんて!」
「ピーター・ペディグリューはお前が12年前に殺したんだろう!」
一度沈黙が破られると、皆言いたい事が波の様に襲って来た。本当にスキャバーズがピーター・ペディグリューなのだろうか。いや、そんな訳がない。スキャバーズが人間らしいところを見せた事なんて1度も無いんだ。いつも食べては寝てばかりで、最近では猫のクルックシャンクスに追いかけまわされて必死に逃げていた。
「殺そうと思った……」
一瞬、ブラックの顔に影が差した。しかし次の瞬間、その瞳をギロリとスキャバーズに向けた。
「だが小賢しい事にピーターに出し抜かれた!こいつは俺達を裏切って自分だけのうのうと暮らしていたんだ!そんなに信じられないなら、証拠を見せよう!!」
シリウス・ブラックはスキャバーズに襲い掛かって来た。スキャバーズは必死になって逃げようとしている。
ロンはスキャバーズを両手でしっかりと握り、庇っている。そうだ、いつだってロンはスキャバーズの味方だった。
「シリウス、止すんだ!!」
ルーピン先生が、咄嗟に飛び出しブラックを止めた。ブラックは骨と皮のような体で抵抗しながら、必死になってスキャバーズを捕らえようとしている。
「放せ!リーマス!!」
「止めるんだシリウス、皆にちゃんと分かってもらわないと!説明しないといけないんだ!!」
「説明なら後ですれば良い!!」
ブラックはどこにそんな力を秘めているのか、やせ細った体で、ルーピン先生の制止を振り切り、右手だけはスキャバーズを捕まえようと足掻いている。それをルーピン先生は何とか引き離そうと必死だ。