第29章 【ルーピン先生の裏切り】
クリスは言葉が出なかった。確かに狼人間は容赦なく人を襲い、その襲った人物も狼人間に変えてしまう、魔法界でも類を見ない危険な存在だと認識されている。
しかし、目の前にいるルーピン先生がそんな恐ろしい人間だとは思えなかった。その証拠に、ロンの言葉にルーピン先生は一歩も動かなかった。先生は視線を落とし、瞼を閉じグッと堪えると、ハーマイオニーに向き合った。
「いったいいつから私が狼男だと気づいていたんだい?」
「ずっと前よ、スネイプ先生が宿題として狼人間に対する宿題を出した時から」
「スネイプ先生はきっと大喜びだろうね、ずっと私が狼人間だと誰かに気づいて欲しかったようだから……」
「それじゃあ、先生のご病気っていうのは、まさか……」
クリスの頭の中で、今、全てが合致した。先生の見かけ、ハーマイオニーの態度、ハグリッドが言っていた言葉、スネイプが作っていた薬。それら全て、先生が狼人間だという証だったのだ。ショックを受けるクリスに、先生はいつもの様に笑って見せた。しかしその笑顔が余計に痛々しくクリスの心に突き刺さった。
「そう、そのまさかだよクリス。私の体調は月の満ち欠けによって変わる。それに気づいたんだね、ハーマイオニー。それとも『ボガート』が私の前で満月に変わったのを見た時かな?」
「……その両方よ」
「参ったな。君は同学年の中でも私が知っている誰よりも賢いね、ハーマイオニー」
「そんな事ないわ、私がもっと賢かったら、とっくにダンブルドア先生に言っているもの」
「しかし、ダンブルドアはそのことを承知で私を雇ったんだ。知っているだろうハリー、スネイプ先生が私に薬を煎じてくれていたのを。あれはダンブルドアの命令だったんだ」
「だけどダンブルドアは間違っていた!!先生は僕達をだましてコイツを手引きしていたんだ!!」
ハリーが吼える様に叫んだ。それを聞いて、ルーピン先生は困ったようにため息を吐いた。
「どうすれば信用してくれるのかな?」
「私は……私は先生を信用しています。お願いです先生、理由を話してください」
「クリスッ!君はいったい何度言ったら――」
「いや、ありがとうクリス。ほら――」