第29章 【ルーピン先生の裏切り】
「それは否定出来ない……だが聞いてくれ、もし君が本当の事を知ったら――」
「――本当の事ならもう知っている!!お前はヴォルデモートに僕の両親を売ったんだ!!」
「頼む、聞いてくれハリー。じゃないと君は後悔することになる」
「うるさい!お前になんて分かるもんか!!僕の父さんと母さんが――僕が殺される前に、なんて言い残したかなんて……お前には分からないだろう!!」
ハリーは杖を力いっぱい握りしめた。しかしどうした事か、ハリーは歯を食いしばり呪文を唱えようとはしない。もし隙をつかれて杖を奪われるようなことになったら――何があるか分からない、クリスは余った杖をハーマイオニーから受け取ると、召喚の杖を手に取った。
この狭い部屋の中で精霊を召喚したら、その力の強大さに屋敷が耐えられず共倒れになってしまう危険がある。しかし、もし何かあったら、精霊を召還しなければならないだろう。出来ることならそうなって欲しくはないが……クリスの頬に、一粒の汗が伝い落ちた。
いったいどのくらいの間そうしていただろう。ハリーは黙ったまま、ブラックっを見つめていた。そしてブラックもまた、ハリーを見つめていた。
その時、階下で誰かが動いている音が聞こえてきた。ハーマイオニーがあらん限りの声で叫んだ。
「ここよ!皆上にいるわ!!シリウス・ブラックも一緒よ、早く!!」
ハリーは覚悟を決めかねているようだった。確かにシリウス・ブラックは憎いだろう。しかし――『人殺し』になる決意がハリーにはまだない様に見えた。
その時、足音がバタバタと近づいてきて、突如ドアが開いた。その場にいた全員の眼がドアの傍に立っている人物に注がれた。その人物とは――ルーピン先生だ!
クリスはもう安心だと顔を輝かせた。ルーピン先生はまずハリーを見て、それから怪我をしているロン、召喚の杖を構えたクリス、顔面蒼白のハーマイオニーに対し視線を注ぎ、それから杖を突きつけれれているシリウス・ブラックを見た。
「エクスペリアームス!!」
4人の杖が、またしても持ち主の手から離れ、ルーピン先生はそれを素早キャッチした。クリスには信じられなかった。ルーピン先生はいったい何を考えているのだろう。ルーピン先生は杖を構えたまま、シリウス・ブラックを見つめていた。