第28章 【シリウス・ブラック】
罪悪感と絶望感に、クリスは吐き気がしてきた。さらに、ハグリッドの吼える様な雄叫びが聞こえてくると、ますます気分が沈んで立っているのもやっとと言う状態になった。
いつまでそこで立ち尽くしいていただろう。陽が沈み、辺りが真っ暗になる頃になってクリスはやっと我に返った。
「行こう、ここに居ても仕方がない」
「仕方がないって――ハグリッドはどうするの!?」
「ハグリッドにはダンブルドア校長がついてくれている。ダンブルドアは『透明マント』の事を知っているし、もし私達がこんな遅くに出歩いている事を知れば、ハグリッドの立場は余計に悪くなる」
「なんで君はそんな冷静でいられるんだ!!」
「分からないんだ、泣けばいいのか、怒ればいいのか。ただ……何もできなかった自分が情けなくて仕方がない」
クリスの声は震えていた。それを聞いて、ハリーはハッと気づいた。クリスも苦しんでいるんだと。
「ごめん……そうだよね、君も辛い思いをしているんだよね」
「お願い、もう城に帰りましょう。私……私これ以上耐えられないわ。なんで――なんであの人たちは平気でこんな事が出来るの?」
ハーマイオニーの問いに、誰も答えることが出来なかった。
ロンは再び手の中でもがいているスキャバーズをなんとかポケットに入れようと必死になっていた。しかしスキャバーズは逃れようとのたうちまわって、ロンの手に噛みついた。
「痛っ!!コイツ噛みつきやがった!この――大人しく―――しろって」
ロンが手から血を流しながらもスキャバーズをポケットに押し込もうとしている。その瞬間、ギラッと光る2つの眼がこちらを見据えていた。
「ルーモス!」
ハリーが素早く杖明かりを灯すと、芝生の上にオレンジ色の猫の姿があった。紛れもない、クルックシャンクスだ。まさに最悪のタイミングである。
「クルックシャンクス、駄目よ!あっちに行きなさい、今は駄目なのよ。言う事を聞いて!!」
しかしクルックシャンクスは、まるで獲物狙うハンターの様に瞳をギラつかせると、シュッとロンの胸ポケット目がけて飛びかかって来た。
その一瞬の隙に、スキャバーズはポケットから飛び出ると芝生の上を飛ぶように駆け抜けていった。その後をクルックシャンクスが追い、そして遂にロンが『透明マント』から抜け出して2匹を追いかけた。