第28章 【シリウス・ブラック】
もうこれ以上ジッとしている事なんて出来なかった。ハリー、クリス、ハーマイオニーの3人も『透明マント』を脱ぎ捨て、ハリーがマントを後ろになびかせながらロンの後を追った。暗闇の中、ロンの足音と叫び声が聞こえた。
「スキャバーズから離れろ、じゃないとけり飛ばすぞ!!」
ロンがスキャバーズを捕まえ、クルックシャンクスに向かって足を振り上げていた。ハリーは息も絶え絶え、ロンにマントの中に入るよう言った。
ロンはポケットに無理矢理スキャバーズを突っ込むと、両手で蓋をしてしっかり押さえている。4人はかたまってマントを被ろうとした。
その刹那――夜の闇に紛れ何かがこちらに向かって走って来る音がした。誰も杖を取り出す余裕もなく、『それ』は大きく飛び上がると、ハリーに向かって体当たりをした。
よく見ると、巨大な真っ黒い犬だった。ハリーははね飛ばされ、地面に倒れた。
残った3人に、犬は目標を変えて再び走り襲い掛かって来た。ハーマイオニーとクリスを守る様にロンが片手を広げ立ちふさがった。犬はロンの腕をその鋭い牙でガブリと咥えると、ズルズルとロンを引きずって行った。
「ロンッ!!!」
クリスはロンを追いかけようと走り出した。その時、突然横からものすごい勢いで何かがクリスの体を吹き飛ばした。その瞬間、思わず召喚の杖が手からこぼれ落ちた。
クリスの体は易々と1メートルは飛ばされただろうか。いったい何が起こったのか分からず、手探りで召喚の杖を探そうとしたが、今度は左側から同じように衝撃が襲い掛かてきて、クリスは悲鳴を上げた。その近くで、ハリーとハーマイオニーの悲鳴も聞こえた。
「ルーモス!」
どこからかハリーが呪文を唱える声がした。杖明かりに照らし出されたのは、太木の幹だった。どうやら知らず知らずの内に、ロンを追いかけて『暴れ柳』の攻撃範囲内に入り込んでしまったらしい。
『暴れ柳』は、近づくものを容赦なく攻撃しようと、その太い枝をブンブン振り回していた。そしてその木の根元では、大きな黒い犬がロンを口にくわえたまま、根元の穴にロンを引きずり込もうとしている。