第23章 【胸の棘】
「なあ、教えてくれないかハーマイオニー。何がいったい君をそんなに頑なにさせているんだ?」
「いっ、言えないわ……だって、マクゴナガル先生と約束したんだもの」
「それじゃあ、どうしてルーピン先生の病気をあんな形でひけらかしたんだ?あれじゃあ喧嘩を売っているようにしか見えないだろう?」
「あれは……確かに私が悪かったわ……でも、でも、あの時はあんな言い方しか出来なくて……それに、ルーピン先生の秘密をばらす事なんて出来ないわ!」
それからハーマイオニーは、遂に耐え切れずに、わあっと泣きだしてしまい、これ以上の追及は出来なくなった。その間、クリスはずっとローブ越しにハーマイオニーの頭を、まるで赤ん坊をあやす様にポンポンと叩いていた。
机に散らばった教科書や羊皮紙の束は、彼女の涙と努力と結晶だ。こんなに頑張っていたのに、誰一人彼女を労わることなく、ハーマイオニーは孤独と戦い続けてきたのだ。そう思うと、胸に刺さった棘が渦を巻いて毒になり体を蝕み始めた。その苦しみに、クリスは奥歯を食いしばり耐えた。
ついに閉館時間が迫って来て、クリスは適当にハーマイオニーの荷物を彼女のカバンの中に押し込むと、自分の荷物も片付け、ローブを取ると代わりにハンカチを渡した。ハーマイオニーは号泣さえしていなかったが、まだ涙を流していた。このまま談話室に行く気にはなれず、クリスは『忍びの地図』で覚えた空き教室にハーマイオニーと2人でこっそり入った。
部屋はガランとしており、ハーマイオニーがすすり泣く声だけが響いている。クリスは適当な場所にハーマイオニーを座らせると、自分も隣に座った。そして肩を寄せて、泣いているハーマイオニーの肩を優しくさすった。
「もう良いんだ、泣くなよハーマイオニー」
「どう、して……どうして、貴女はそんなに、やさ、優しいの?私、貴女に、あんなに酷い態度を――」
「さて、どうしてかな。正直まだ理解できなくて怒っている部分もあるが、もう喧嘩していたいとは思えない。きっと、ハーマイオニーが私たちの事を本当に心配してくれてるからだと思う」