第23章 【胸の棘】
「君はまだハーマイオニーと仲直りする気はないの?」
「冗談!あっちが謝ってきたら僕だって許してやるさ。でもあんな態度をとるようじゃダメだね」
ここにもまだ意地っ張りがいる。ハリーはそう思い、深いため息を吐いた。
* * *
クリスは『太った婦人』に合言葉を言い、談話室に入るとハーマイオニーの姿を探した。いつもどこかの机を陣取って、教科書や辞典を天高く積み上げて勉強している。しかしその姿は今はどこにも無い。となると、今日は図書館にいるのか。
クリスは宿題一式を持って、図書館に向かった。そして図書館でハーマイオニーの姿を探した。すると、図書館の一角で、本屋の如く教科書や参考書を広げて必死になってレポートを書いているハーマイオニーの姿を見付けた。クリスは深呼吸をすると、そのテーブルに向かって行き、何も言わずにハーマイオニーの対面に座った。
「何?今ここは私が使っているの。邪魔しないでちょうだい」
「それは不思議なセリフだな。ここは図書館で全生徒共有の場所だし、私はここで自分の宿題をしているだけだ。君の邪魔なんて1つもしていないけどな」
「あっ……貴女がいるだけで邪魔だって言っているのよ!」
思わず声を荒げるハーマイオニーだったが、司書のマダム・ピンスにじろりと睨まれ、口をつぐんだ。それを良い事に、クリスは堂々と教科書を開き、宿題を始めた。こうなったら意地の張り合いだ、沈黙を続けていた2人の間には緊張がはしっていた。それでも2人はそこを動こうとはしなかった。それからどの位経っただろう、遂にハーマイオニーが重たい口を開いた。
「どうして……るの?」
「ん?何か言ったか?」
「どうして、貴女は……私なんかの傍にいるの?」
「さあ、ただ私はいつも通りの生活が送りたいだけだし、それに……学年1優秀な生徒が傍にいないと、何か分からない所があった時困るだろう?」
クリスが何事も無かったかの様に言うと、ハーマイオニーの目から涙が一滴流れ落ち、羊皮紙を濡らした。ハーマイオニーはそれを袖で拭うが、涙は次々と流れては落ち、流れては落ち、羊皮紙を濡らしてゆく。
もう良い、答えはもう十分出ている――。そう思ったクリスは黙ってローブを脱ぐと、それをハーマイオニーの頭にかぶせ、ポンポンと優しく頭を叩いた。