第20章 【チョコチップクッキー】
「しかも赤いマフラーだなんて……まるで学生の時に戻ったみたいだ。実を言うと、私もグリフィンドール出身なんだ」
「せっ、先生もグリフィンドールだったんですか?」
ルーピン先生の温厚な性格を考えて、勝手にハッフルパフ出身だと思っていたが、まさか同じグリフィンドール出身だったなんて……。少し年代は離れるが、同じ寮という事は先生の後輩と言っても過言ではない。
さらにクリスを幸せの絶頂に導くかの如く、ルーピン先生は思ってもみなかった発言をした。
「でも、なんだかこれを巻いていると学生の頃に戻ったみたいだ。懐かしいな……そうそう、君のお母さんも知っているよ。私達の先輩でね。明るくて、優しくて、誰からも好かれていた素敵な人だった。君は多分お母さんに似たんだろうね」
「母様に、ですか?父様ではなく?」
「うん、顔は確かにお父さん似だけれど、優しくて人を惹きつける才能がある所はお母さんそっくりだよ」
生まれてこの方、父様に似ていると言われ続けてきたので、母様に似ていると言われると、なんだか嬉しい様な、くすぐったい様な気分になってきた。満面の笑みでマフラーを巻くルーピン先生の姿を見るのが恥ずかしくて、クリスは下を向いたまま甘いクッキーを口に運んだ。
「そうだ!良かったらこのクッキー、ハリー達にも分けてあげてくれないか?折角美味しく出来たのに、私達だけで食べきるのは勿体ないからね」
「そう……ですね」
ハリー『達』と聞いて一瞬ハーマイオニーの顔が浮かんだ。このクッキーを渡したら、いったいどんな顔をするだろう。悩むクリスの表情を、ルーピン先生は見逃さなかった。
「どうしたんだい?何か悩み事があるのかな?」
「いえ、ちょっと……ハーマイオニーと喧嘩しちゃって――」
「大丈夫だよ、君達ならきっと直ぐに仲直りできるさ」
「そんな簡単にいけば苦労しない!!」
ハッと気づいた時には遅かった。つい感情的になってルーピン先生相手に怒鳴ってしまった。クリスの顔色はどんどん青くなっていった。しかしルーピン先生は咎めたりせず、優しく微笑んでいた。
「何があったのか、教えてくれるかい?もし私が力になれるなら、マフラーのお礼に、ぜひ話だけでも聞かせて欲しい」