第17章 【優しい手】
その時、スネイプの知っているクリスとは想像が出来ないほど素直に、花の咲くような笑顔を見せた。色々あってホグワーツに入学する頃には捻くれてしまっていたが、5、6歳の頃のクリスにはまだまだ純粋な心があったのだ。もちろんそんな事は知る由もないスネイプは、驚きの表情を隠せなかった。それを見て、クリスが不思議そうな顔をする。
「?どうかしたんですか?スネイプさん」
「い……いや、なんでもない」
気を取り直して、スネイプは調合に戻った。暫く薬を煮詰める音と、暖炉の薪が燃える音だけが聞こえていたが、そんな中きゅるるる……と言うかわいい腹の虫の音が部屋に響いた。
「……腹が減ったのか?」
「あの、いえ、その……すみません、いつもなら、もうおやつの時間なので」
グレイン家では、食の細いクリスの為に屋敷しもべのチャンドラーが、毎日毎日欠かさず手作りのお菓子を作って食べさせていた。すっかりそれが習慣づいているクリスの腹は、時間が過ぎるとお腹が鳴ってしまうのだった。
「もう少し我慢したまえ。ここにはお菓子なんてない」
「はい、わかりました」
と言った途端、またクリスのお腹からきゅるるると音が聞こえてきた。スネイプは眉間を押さえ、またまた深いため息を吐いた。
「何が食べたい?」
「え?でもさっきお菓子はないって……」
「簡単なものなら魔法で出してやる。食べたいものを言ってみたまえ」
「えっと……それじゃあ紅茶とクッキー。それからプリンにババロア、スコーンとジャムにショートケーキ――」
「そんなに出せるか馬鹿者!!」
「こ、紅茶とクッキーをください」
スネイプが杖を一振りすると、机の上に紅茶とプレーン・クッキーが現れた。ぶかぶかのローブの袖から手を出してクッキーを取ると、早速口に運ぶ。するとクリスがニコッと嬉しそうな顔をスネイプに向けた。
「オイシイです。ありがとうございますスネイプさん」
「そうか」
スネイプは心中で「なぜ吾輩がこんな事を」と毒づき、眉間のしわをいつもの3倍深く刻み込んでいた。しかし美味しそうに紅茶とクッキーを口にするクリスの顔を見ていると、何故だか許せてしまう気分になってくるから不思議だった。