第17章 【優しい手】
「ど……どうして私のなまえを?」
「何を言っている?3年間も教えてきて名前を知らないわけが――」
そこまで言って、スネイプはクリスの様子を見て気が付いた。どうも体だけではなく記憶も子供の頃に戻ってしまっているらしい。そうでなければ説明がつかない。
スネイプはどうしようか考えたが、どうせ今作っている解毒剤を飲ませる必要があるのだから、あえて他の場所に移動させる事もないだろう。あと30分もすれば薬が完成するので、そうすれば元通りだ。むしろこんな体で勝手にホグワーツ城内をフラフラうろつかれる方が困る。
「……少しの間そこで大人しくしていたまえ。分かったか?」
「でも……はやく家にもどらないとチャンドラーがうるさいので。あの、だんろをつかっても良いですか?『フルー・パウダー』でかえります」
「許可できん。分かったら黙ってそこに座っていろ」
クリスはまだ何か言いたそうな顔をしたが、このスネイプの独特の迫力に圧され、しぶしぶ手近にあった椅子に腰かけた。こんな小さな子供なんて相手にしたことがないスネイプにしてみれば、これはかなりのストレスだったが、邪見にも出来ず、早く調合を終わらせさっさと寮に帰ってもらう事にした。
「あの……」
先に沈黙を破ったのはクリスだった。スネイプは目線を大鍋から逸らす事もせずただ返事だけした。
「なんだ?」
「おなまえを聞いてもいいですか?」
「……スネイプだ。セブルス・スネイプ」
「スネイプ……さん。すみませんが、なにかはおるものはありますか?ここ、さむくって……は、は……はっくしょん!」
確かに気が付けば、雪が降りしきるこの12月にシャツ1枚という姿だ。スネイプは深いため息を吐くと、仕方なく自分が着ていたローブを羽織らせた。
「これで良いか?それと、椅子をもっと暖炉に近づけたまえ」
「でも、これだとスネイプさんが――」
「たかだか上着1枚脱いだからと言ってどうと言う事もない。それよりもその格好で風邪をひかれても面倒だ」
「あ、ありがとうございます、スネイプさん」