第2章 【Dog days】
治療を終え、食べ物が沢山入ったかごを見せると、犬は「ワン!!」と大きく吠えた。そして勢いよく食べ物をむさぼり始めた。よほどお腹がすいていたんだろう。その勢いたるやクリスが驚くほどだった。早食いの名人であるロンでさえ、ここまでの勢いはない。
「お前、よほどお腹がすいていたんだな。だからと言って人間を食べようだなんて自棄おこすなよ……って、聞いてないか」
犬は呼吸する暇も惜しいほど、勢いよくがっついていた。そして持ってきた肉から野菜まで、全部キレイに食べ終えてしまった。
最後に「ごちそう様」とでも言うように、きちんとお座りをして「ワン」と一声鳴いた。そのあまりの人間くさい仕草に、クリスは思わずクスッと笑ってしまった。
「お前、本当に賢いな。さては昔、誰かに飼われていたんだろう」
警戒心を解いたクリスは、犬の頭をそっと撫でた。すると犬も気持ちよさそうに目を細めた。それだけで、何だかこの犬と心と心が通い合っているような気さえしてきた。ついさっき襲われていた事なんて忘れてしまいそうになるくらい、クリスはこの犬に気をゆるしていた。
しばらく犬の頭をなでていたクリスだったが、突然犬が何かに気づいたようにふっとクリスの手から離れた。そしてその場に置いてあったカタログを見つけると、興味深そうにクンクンと匂いを嗅いでいた。
「お前……もしかして電化製品に興味があるのか?」
すると犬は一声「ワン」と鳴いて、器用に鼻先でカタログのページをめくってみせた。
「お前凄いな!犬のくせにマグル製品に興味があるなんて!!なんて賢いんだ!」
感動のあまり、クリスは犬をぎゅっと抱きしめた。そして1ページ1ページづつめくっては、電化製品の説明をしてやった。
「これは『テレビジョン』と言ってな、この小さな箱の中でマグルが動いて色々な情報を届けてくれるんだ!そしてこれは『カメラ』といって、その場の景色なんかを、まるで切り取ったようにキレイに現像できるんだ!それだけじゃないぞ!魔法界の写真と違って、人物が動くことが無いから画面から消えることが無いんだぞ!」
今まで自分の周りに、マグル製品に興味を示した者は誰1人としていなかったので、クリスは夢中になってそれぞれの製品を指さしながら犬に教えてやった。