第2章 【Dog days】
カラスたちはその鋭いくちばしと爪で、群がる様に獣に襲い掛かった。流石の獣も、これには参ったようで、クリスから離れると、「キャイン、キャイン」と鳴きながら土の上を転げまわった。形勢が逆転したとみると、クリスはカラスたちを制止させた。
「もう良い、お前たち!もう止めろ!!」
クリスがそう命令すると、ネサラ以外のカラスは木々に戻っていった。しかしその瞳はまだ獣をとらえたままだ。ネサラもクリスの肩に止まると、クリスを襲った獣を注意深く見ていた。クリスがゆっくりと獣に近づくと、獣は「ク~ン」と情けない鳴き声を上げた。よく見てみると、獣は達の悪い妖魔などではなく、真っ黒い大きな犬だった。それも、かなりやせ細っている。
「お前……もしかして、お腹がすいているのか?」
すると犬は頷くように「ワン」と一回吠えた。まるで人間の言葉が分かるようだ。クリスはゆっくり犬から離れた。
「ちょっと待っていろよ、そのままそこにいろ!今何か持ってきてやる」
犬にそう言い聞かせると、クリスは急いで屋敷まで戻った。そしてチャンドラーに気づかれないようにシーツとハサミを持ってくると、厨房に入って、食料を探した。
「えーっと、犬って何を食べるんだ?肉食?草食ってことは無いだろうし……雑食?まあいいや、何でも持って行ってしまえ」
厨房にある魚の燻製や、ソーセージやハム、生で食べられる野菜、果物をかごに入れると、クリスは今来た道を急いで戻っていった。そしてもと居た場所に戻ると、そこには先ほど黒い犬が、力なく伏せっていた。
クリスはまずシーツをハサミで裂いて、包帯を作った。1年生のころ読んだ「緊急!救急!応急処置!~マグル式~」がこんな所でまた役に立つだなんて思わなかった。
「良い子だから、大人しくしてろよ。今傷口を包帯で巻いてやる」
黒い毛並みに、カラス達にやられた傷が赤い鮮血として体にいくつも残っている。クリスは本の内容をよく思い出しながら、慣れない手つきで丁寧に犬に包帯を巻いてやった。その間、犬は大人しくされるがまま治療を受けていた。その様子から、もうクリスを噛み殺す気はない様だ。
「よーし、良い子だ。もうすぐ手当てが終わるからな。そしたら食べ物をやるぞ」