第2章 【Dog days】
「はー、参った参った。今度からまた隠し場所を変えないとな……」
全く反省のないクリスは、そんな事を考えながら森の中を散策した。この森は鬱蒼を茂っているだけでなく、達の悪い妖魔や魔法植物が生えており、危険とされている。だから屋敷の周りに結界が張ってあるのだが、結界内ではまたチャンドラーが追いかけてくると思い、結界を少し出た。まあ結界をちょっと出ただけで命の危険にさらされる心配はないだろうと慢心していたクリスは、適当な場所を見つけると、そこに腰を下ろした。
「まったくなんでチャンドラーといい、純血主義の人間達といい、マグルのすばらしさに気づかないんだろう。彼らは魔法無しでもこんなに画期的な発明ばかりしているのに……」
カタログを読みながら、クリスはハアッとため息をついた。カタログの中はクリスにとって夢の世界だ。1ページめくるだけでも夢のような世界が広がっている。カタログに載っている『50インチハイビジョンテレビ』など見つめては、とろけるような表情を浮かべて見入っている。
そんなクリスの額から、つうっと一筋の汗が流れ落ちた。
「それにしても、今日は特別熱いなあ……森の中がちょうど良いくらいだ」
ハイランド地方に位置するこの森は、真夏でも夜は勿論の事、夕方には上着が必要になってくるほど涼しい。いつもはこの時間帯は部屋で昼寝をしている時間だが、今日に限っては暑くてそれどころじゃないだろう。「そう言えば、昼食の途中だったな」なんて事をのんびり考えながらカタログを読んでいると、背後から何かが忍び寄って来る気配がした。
(しまった!)
クリスは急いで指笛を吹いたが、襲ってくる獣の方が速かった。万事休す、クリスが召喚の杖で獣の口をふさいだが、獣は召喚の杖ごとクリスの喉元をかみ切る勢いを見せた。こんな事なら結界を出るんじゃなかったと、後悔したがもう遅い。
あと少しで獣の牙が喉元に届こうとした時、鬱蒼と茂った木々の間から、黒い影が幾つも飛び出し、獣を襲い始めた。よく見ると、それは使い魔のネサラとその仲間たちだった。