第2章 【Dog days】
「何って、見ての通り電化製品のカタログだ」
「どうしてこんな薄汚い物がこのお屋敷にあるんですか!?お嬢さま!!さてはまたコソコソと隠れてマグルの町まで行きましたね!!」
「コソコソ隠れてなんてない。堂々と、漏れ鍋からマグルの町へ行った」
「そんな屁理屈を聞いているんじゃありません!お嬢さまっ!!マグルの町へ行かないよう、私、口がす~~~っぱくなるほど何度も言いましたよね!?それなのにお嬢さまは、私の忠告などどこ吹く風でマグルの町に行き、あろう事かこんな薄汚い雑誌まで持って帰ってくる始末!!この事がご主人様のお耳に入るようなことがあれば、私は首が飛びますぞ!!」
屋敷しもべ独特のキンキン声のお説教に、クリスはボーっとしながら「今日のお説教はいったい何時間に及ぶんだろう」なんて呑気なことを考えていた。流石に13年間お説教を受けてきたせいで、その対処法は嫌でも身についている。クリスは耳に入ってくるお説教を右から左へと流していった。
聞き飽きた説教にクリスがあくびをすると、チャンドラーは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「聞いているんですか!!?お嬢さま!!!」
「すまん、全然聞いていなかった」
悪びれたそぶりもないその一言に、遂にチャンドラーの怒りが頂点に達した。
「私、この事をご主人様にご報告申し上げます!!ええ、たとえ首が飛んでも構いません!!そしてこんな薄汚い雑誌は暖炉の火種とさせてもらいます!!!」
「そんな事をしてみろ、お前も暖炉に放り込むぞ」
クリスの独特の赤い瞳を鋭く光らせ静かにそう言うと、チャンドラーは急にテニスボールのような大きな目玉に涙を浮かべた。
「ええっ、構いませんとも!それでお嬢さまの悪癖が治り、純血の血をひく尊いお1人だと言う自覚を持っていただけるのならば、私はこの身が炎に焼き焦がれ灰になろうとも本望でございます!!」
今度は泣き落としかと、クリスはがっくり肩を落とした。この勢いだと、本当にカタログと一緒に心中を図りそうだ。
「分かった、お前がそこまで言うなら、もうこのカタログは屋敷内では読まないよ」
「お嬢さま……分かっていただ――」
「――その代り、森で読む!」
チャンドラーの手からカタログをサッと奪い取ると、クリスは追いかけてくる悲鳴から逃げる様に森へと駆け込んだ。