第2章 【Dog days】
Dog daysとは、真夏の一番暑い日をさす。由来は大犬座のシリウスの別名Dog Starを指しており、7月から8月頃、日の昇る時間に現れて日の入りと共に沈むシリウスが、夏の厳しい暑さをもたらしていると古代ローマにおいて考えられたことに由来している。
正にそんな言葉が似合う8月のある日の事だった。サンクチュアリの森とは名ばかりのうっそうと茂った森の中に、ぽつんと円形状に開かれた場所がある。そこに約800年以上前に建てられた屋敷があった。その屋敷から、突如耳を覆いたくなるほど大きく甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「……いったいなんだ?騒がしいな」
その屋敷に住む一人の少女、クリス・グレインは食堂で昼食を取っている最中だった。声の主は分かりきっている。この屋敷に住まう屋敷しもべのチャンドラーの悲鳴だ。正にこの世の終わりだと言わんばかりの悲鳴に、クリスは重い腰を上げてその声のする場所に向かった。
「チャンドラー、煩いぞ。私は今食事をとっている最中なんだ、静かにしろ!」
不満を口にしながらチャンドラーのいる部屋に行くと、チャンドラーは返事もせず、ただ後ろを向いてプルプル震えていた。そこは誰も使っていない空き部屋だったが、掃除だけは毎日行われていた。今も掃除の最中だったのだろう、掃除道具もそのままに、チャンドラーはあまりの衝撃に固まって振り向けないらしい。
クリスは嫌な予感がして、チャンドラーの正面に立った。すると――そこには隠してあった夏休みの戦利品、電気屋さんから貰ってきた電化製品のカタログを握ったままのチャンドラーがいた。
「おっ、お前、それどこから見つけてきた!!?」
クリスは数週間前、友人のロンと一緒にマグルの町へ出かけた際、電気屋さんから貰ってきたカタログを、見つからない様わざわざキャビネットの天井を二重構造に改造し、その隙間に隠しておいたのだった。背の小さい屋敷しもべの視線のいかない所へわざわざ隠したと言うのに、どうして見つかったのだろう。クリスはチッと舌打ちをした。
「お、おおおおおおお嬢さまっ!!!!!い、いいいいいったいこれは何なんですか!!!???」
見つかっては仕方がないと、クリスは潔く開き直ることにした。