第11章 【甘い罠】
「へえ、良いな……ここ」
「君、こんな物に興味があったのかい?」
「いや、今までは気にした事が無かったけど……何というか、どことなく懐かしい気がする」
その時、召喚の杖が少し温かくなるのを感じた。もしかしたら、召喚の杖の先端についている石と、この店の石が共鳴しあっているのかもしれない。クリスは石に呼ばれるようにして、店内の商品を見て回っていた。すると突然、店長と思わしき人物から肩を叩かれた。
「君、もしかしてその手にもっているのは召喚の杖かい!?」
「ええ、そうですけど。良く分かりましたね」
「そりゃこんな商売をやっているくらいだからね。でも、実物を見るのは初めてだ!頼む、少しだけ杖をかしてくれないかね?」
「悪いがそれだけは聞けませんね。これは亡き母から受け継いだ大切な杖なので」
「そこをなんとか!」
「おい!しつこいぞ貴様!!」
クリスに代わって、ドラコが声を荒げた。すると店主は仕方なさそうに肩を下げた。
「……そうか、残念だけど仕方がないね。まあ、ゆっくり店内を見ていってよ」
店長はカウンターに戻って行ったが、目はしつこくクリスの召喚の杖を見つめていた。クリスはそれを無視するように、ドラコの陰に隠れてやり過ごそうとした。その時、まだお互い手を握り合っているのに気づいた。クリスは何だか恥ずかしくなって勢いよく手を離した。
「ん?どうしたんだいクリス?」
「いや……なんとなく……」
「何か気に入った物があったら言ってくれ。父上から今日の為に沢山お金を貰っているんだ」
「流石にそれは悪いからいいよ」
「気にするなよ、僕らの仲じゃないか」
「うーん、じゃあ……気に入ったのがあったら言うから」
「ああ、ゆっくり選んでくれ」
と、言われても何をねだればいいのか分からない。それほど店内には数多くのパワーストーンが並べられていた。クリスは棚の端から順番に見ていったが、どれも魅力的で、どれにしようか迷ってしまう。
悩みながら店内をぐるりと回っていると、ふと、何かに呼ばれたような気がして振り返った。すると他に並んでいる石とは違い、赤と緑の宝石がはめ込まれ、縁には波の様な模様が彫りこんである指輪が目に入った。試しに指にはめてみると、まるで産まれた時からはめていた様なしっくりくる感じがした。