第11章 【甘い罠】
クリスは値段を確かめたが、なんと40ガリオンもする。流石にこんな高額はねだれないと思ったが、ドラコが肩越しにその指輪を見るとフッと笑った。
「それが気に入ったのかい?」
「うん。だけど流石に高すぎる」
「気にするなよ。言っただろう、今日は僕のおごりだって」
そう言って、指輪を取るとカウンターに持っていって素早く会計を済ませてしまった。クリスはそわそわしながら店の軒下で待っていると、ドラコはわざわざケースに入った指輪を取り出し、クリスの右手を取った。
「な、何だか悪いな。誕生日でもないのにこんな高価なものを貰って」
「気にする事ないさ。許婚に物を贈るのに、理由なんていらないだろう?」
――イイナズケニ モノヲオクルノ二 リユウナンテ イラナイ――
何故だろう。その言葉を聞いた瞬間、クリスの心が一気に冷めていくのを感じた。黒く、凍り付いたような感情がクリスの体を蝕んでいく。
ドラコが指輪をはめ様としたその刹那、クリスは電撃が走ったかのように素早く手を引っ込めた。
「クリス?いったいどう――」
「いらない」
「はあ?何を言っているんだい、ついさっきこれが欲しいって言ったばかりじゃないか!」
「うるさい!とにかくもうそんな指輪は要らない!他に誰か好きな相手にあげるか、店に返せばいいじゃないか!!」
ここが店のすぐ前だと言いう事も忘れ、クリスは大声で怒鳴った。目頭がツンと痛くなり、クリスはドラコに背を向けると、何も言わず走ってホグズミードの道を駆け抜けた。
途中、心臓が痛くなって立ち止まると、一滴の雨が地面を濡らした。――いや、違う。雨だと思ったものは、自分の頬を伝い落ちる一筋の涙だった。
「あれ?……おかしいな……」
クリスはローブの袖で乱暴に涙をぬぐうと、一目散に駆けだしてにハニーデュークスの店に飛び込んだ。店内は相変わらずホグワーツ生でいっぱいだったが、クリスはその中から、赤い髪をした男の子と、茶色い髪をたっぷり伸ばした生徒を見つけ出した。
「ロン!ハーマイオニー!」
「クリス!?いったいどうし――」
「スマン!失敗した!!」
悪びれたそぶりもなく、開き直るクリスに、ロンは「ほらね」と言い、ハーマイオニーは頭を抱えて深いため息を吐いた。