第11章 【甘い罠】
それもどうだか、と思っていたクリスだったが、運ばれてきたショートケーキを一口食べてみたら、意外や意外、甘すぎず、かといって濃厚なクリームの味に、クリスは舌鼓をうった。それにイチゴも新鮮で甘く、果汁が口の中に広がり、大胆にもケーキの間に隙間なくぎっしり詰まっている。確かにケーキは一級品だった。
「うん、ケーキは美味しいな」
「だろう?ほら、僕のガトーショコラも一口食べてみないか?」
そう言って、ドラコは自分のケーキをクリスの口に運んだ。途端にクリスの口に、甘くて少しほろ苦いガトーショコラの上品な甘さが広がった。
「ん……店内は最悪だが、ケーキだけは来た甲斐があったな」
「だろう?ほら、口元にクリームがついているぞ」
そう言って、ドラコはクリスの口元についていたクリームを指でとると、そのまま自分の口に運んだ。
「んん、ここの生クリームもなかなかイケるな」
「あーあ、これで店内さえ良ければ完璧なのに」
「まあそう言うな。こんなに美味しい喫茶店はなかなか無いぞ。ほら、もう一口」
クリスは何の躊躇いもなく、口元に差し出されたガトーショコラを食べた。それを見ていたドラコが、またクスクスと笑い始めた。
「……今度は何だ?」
「いや、こんな風に君に物を食べさせるのも久しぶりだと思ってね。昔はよく自分の部屋に閉じこもっては食事もとらず、仕方なく僕が食べさせたものだ」
「昔の事だろう。今はちゃんと自分で食べている」
「そいうだな、君も少しは成長したのかな?」
「ドラコよりは真っ当に成長していると思うけどね。私ならヒッポグリフ怪我させられても、それを悪用しようとは思わないからな」
嫌味を込めてそう言うと、ドラコはムッと怒った顔をしたが、すぐにいつもの薄ら笑いを浮かべた。
「ダンブルドアのお気に入りか何か知らないが、あんなウスノロの馬鹿を教師にした方が悪いんだ」
「ハグリッドは馬鹿なんかじゃないぞ。ただ……好みが他人とちょっと違うだけで」
1年生の時、禁止されているドラゴンの卵を孵化させたことや、去年、禁じられた森に入ってクモに襲われたことを思い出し、あまりクリスも強くは出られなかった。
しかし、だからと言ってハグリッドが全面的に悪くなことも分かっている。事実、ヒッポグリフに怪我をさせられたのはドラコ1人だ。