第11章 【甘い罠】
とっておきの店と聞いて、クリスの心が躍った。ドラコは育ちの良さもあり、グルメだし趣味も悪くない。それはクリスが1番良く知っていた。
いったいどんな店なんだろうと想像を膨らませていると、1軒の小さな喫茶店に辿り着いた。そこはクリスが思っていた上品な店と全く違い、なんというか、甘ったるい空気の漂ったピンク色を主体とした趣味の悪い喫茶店だった。
「ドラコ……本当にここなのか?」
「おかしいな、僕はここのケーキが評判だと聞いてやって来たんだが……」
「それ、誰の情報だ?」
「……パンジーだ」
あのクソ女の趣味かと思うと、納得できる反面、それだけで入る気が無くなった。苛立ちのため息を吐いて踵を返そうとしたクリスの肩を、ドラコがガシっとつかんで引き戻させた。
「外見はアレだけど、ケーキは本当に美味しいらしいから、中に入らないか?」
「パンジー・パーキンソンのお気に入りの店に、私が入ると思うのか?」
「全部僕がおごるから。君には絶対に損はさせないよ」
おごりと聞いてクリスは少し心が動いたが、何せ大嫌いなパンジー・パーキンソンおすすめの店だ良い気はしなかったが、ハーマイオニーからの任務もある。仕方なく、クリスは店に入ることにした。
しかし、それが間違いだった。店内では恋人同士と思われる生徒であふれかえっており、あっちででチュッチュ、こっちでチュッチュと恥ずかしげもなくキスをしている。向かい合わせで座っている男女が、一つのジュースを二股のストローで飲んでいる姿など、見ているだけで身の毛がよだつ。
おまけに天使の格好をした小人が、パタパタ飛び回りながら紙吹雪を撒き、恋人たちの甘い雰囲気をより一層熱くしている。成程、パンジー・パーキンソンが勧めるわけだ。クリスは自分の顔が嫌悪で歪むのを感じた。
席に着くと、クリスはブスッとした顔で、ドラコに宣言した。
「ドラコ、これでケーキが不味かったら私はハーマイオニー達と合流するぞ」
「……分かった。でも、本当に味の保証はあるんだ」