第11章 【甘い罠】
2人はいつの間にかぎゅっとお互いの手を握っていた。そして生徒達が居ないのを確かめると、『立ち入り禁止』と書かれた看板を無視して、庭へと足を踏み入れた。
庭は草がぼうぼうで、誰も立ち入った形跡がない事を示している。2人は慎重に扉の前まで足を進めたが、そこは板が打ち付けられていて入ることが出来ない。他にも出入りできる場所は無いかと思い、館の周りをぐるっと一周したが、ネズミ1匹入り込む隙間は無い。
「これじゃあ来た意味がなかっ――」
「しっ!今何か聞こえなかったか?」
無駄足かと思ったその時、館の中から、ギシッ……ギシッ……と階段を下りてくる足音の様な物が聞こえてきた。それを聞いて、途端に背筋が凍り付くような気がした。間違いなく、足音は誰もいないはずの館の中から聞こえてくる。クリスは握っていたドラコの手に、さらに力を込めた。
「ドドドドドドドドラコ?」
「振り返るなよ、1.2.3で逃げるんだ。いくぞ、1.2の――」
3も待たずして、2人は叫びの館から逃げる様に走り去っていった。その姿を、1匹の黒い犬が窓から覗き込んでいた事も知らず――。
2人は息を切らせて3本の箒まで走って行った。そしてバタービールを注文すると、一気にそれをあおった。すると身体が温まり、先程までの恐怖がどこかに吹き飛んで行った気がして、やっと会話をする気になった。
「はあ~、いったい何だったんだろう。あの音……」
「知らないさ。でも、ゴーストじゃないことは確かだ。ゴーストは足音何て立てないからな」
「何か知らない妖魔でも憑りついているのかな?――とにかく怖かったな」
「こんな時、クラップとゴイルがいれば、無理矢理にでも中を確認させたのに」
「……流石にそれは可哀相じゃないか?」
「それじゃあ、もう一度行って確認してみるかい?」
クリスは首を横にブンブン振って否定した。すると、それを見たドラコがクスクスと笑った。笑われた事にクリスはムッとくちびるを尖らせた。
「……何で笑っているんだ」
「いや……君にも案外可愛らしい所もあるんだなって思って」
「ドラコ、熱でもあるのか?」
「さあね。さて、それじゃあとっておきの店に行くか」