【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】
第3章 闇夜の脅威を消し去れ
フィニッシュを決めたオタベックは、両の拳を握りしめながら天を仰いだ。
その際一瞬だけ顔を顰めたが、直ぐに表情を戻すと観客に一礼する。
リンクを出るまでは平然としていたオタベックだったが、リンクサイドでコーチに迎えられた刹那、ガクリと上体を崩した。
「しっかりしろ!」
「滑っている間だけは、痛みを忘れていたんだが…」
苦笑するも、腰痛を隠し切れない様子のオタベックは、コーチとサブコーチに身体を支えられながら、キスクラへと移動する。
キスクラの椅子に腰掛けたオタベックは、やがて得点が表示されると、痛みに顔を顰めつつも何処かホっとした表情になった。
男子シングルの結果は、1位と2位は変わらず勇利とクリス、そして、最後の最後にユーリを上回ったオタベックが、3位となった。
「ちっ、今回はアイツの気迫にやられたぜ。次は、こうはいかねぇからな」
口では言うものの、何処か清々しい表情で表彰台の3人を眺めていたユーリは、少し離れた所でメダリスト達を一心に見つめている礼之に視線を移す。
途端に、FSでの演技を通した礼之の真剣な想いが甦り、少しだけ鼓動が早まったが、頭を数回振ると努めて意識しないようにする。
(胸張っていいぞ。お前は、『ソルジャー』にも認められた『サムライ』なんだ)
そう心の中で呟くユーリの表情は穏やかで、誇らしげでもあった。
「アレクくん、ほんなごとおめでとう!シニアデビューでワールド7位なんて、ばりすごかけん!」
「僕の前に南さんが凄い演技したから、頑張れたんです。競技中ずっと傍で、僕の事励まして勇気付けてくれて…良かった、僕も枠取りに貢献できて…」
「アレクくーん!」
「南さーん!」
7位と8位に入賞した礼之と南は、暫し抱き合って互いの健闘を讃えた後で、スマホを取り出した。
「ここが、選手達が良い感じに拝めるベスポジなんですよね」
「なら、EXはこの辺から一緒に観よか」
スマホに写る会場の見取り図を前に何やら話し込む2人を、純は呆れた声で呼び止めた。
「何してんねん。君らもEXに出るんやで」
「え?おいもアレクくんも5位以内と違うし」
「君ら開催国選手やろ!特に礼之くんは、特別招待枠なんやで!」
「えぇ、どうして僕が!?」
先輩の勝生勇利並の無自覚さに、純は頭痛を覚えていた。