【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】
第1章 プロローグ
子供の頃の僕は、自分自身のアイデンティティをまるで確立できずにいた。
母の祖国のスオミ(フィンランド)では、アジア系の血が入っている僕は、日本の事などまるで知らない子供や大人達から「チャイニーズ」とからかわれ、父の祖国の日本でも、母親譲りの容姿から「ガイジン」と囃し立てられていたのだ。
日欧ハーフでも、せめて双子の妹のようなこげ茶色の髪や瞳なら良かったのに。
スケートを始めて、『青い瞳のサムライ』と一部で取り上げられている今ですら、僕は正直自分の容姿にコンプレックスを持っている。
「贅沢な悩みだ」と言ってくる人もいるが、僕にとっては真実なのだから仕方ない。
勿論、大好きな日本の祖父をはじめ様々な人から容姿や僕自身の事を認め、褒めて貰えるのは嬉しい。
だけど、ふとした切っ掛けで直ぐに僕の心の中には、臆病で卑屈な虫が「ハーフの半端者が、いい気になるなよ」と騒ぎ始めるのだ。
──そう。あの日、自分の金髪が嫌でたまらなかった幼い僕が、日本の祖父の部屋にあった墨汁を頭から被ったように。