第45章 君と春の日ーR15ー(家康)
「……いえやす……」
恥ずかしそうな声で華月が家康の名を呼んだ。
「…止めないで…」
「お饅頭は?」
「…後で…」
華月 のもどかしそうな、小さな濡れた声。
その声に、家康の軀と気持ちが昂り震える。
「花も…後で…見るから…」
全部、後回しにして、
今は
「家康を見てたい…」
「ッッーー//// もうっ…」
(それ以上何も言えないよう)
「口、塞いどくよっ ////」
「えっ⁉︎なっ?ンッ!い……ん…」
突然、口付けを再開された華月は眼を見張ったけれど、それから逃れる術を持っていなかった。
甘い花の香り
甘い口付け
甘い愛撫
子猫が蝶を追いかけてもつれるようように、黄色い花の絨毯に沈んだ2人の軀。
戯れ合って軀の奥から熱くなる。
温かな春の陽射しを直接背中に受けて、
明るく青い空の下、
誰も見ていない。
舞う蝶々が抱きしめ合う2人の上をハラハラと舞い踊り、見て、高くへ上昇していった。
手を繋いで傾き始めた太陽を、タンポポ畑に立って眺める。
「家康、今日はありがとう。
こう言うこと、家康あんまり好きじゃないよね?」
「……別に……俺は…」
(男だし、綺麗だと思ってもわざわざ、見に来たりしないけど……)
「…華月 …が喜ぶと思ったし……
アンタと一緒なら、見にきても良い…かと…」
(私の為に)
1人じゃ味気ないものも、2人なら楽しめる。
家康の心の小さな変化。
華月の為に。
誰かの為に。
それは人を強く、優しく、大きくする。
「こんな穏やかな春を何度も過ごしたいねっ」
華月がフニャっと家康に笑いかけた。
「そうだね。
……ずっとこうやって、穏やかに過ごせるように、しょう」
心に誓うように力強く前を見据えて言った家康は、ギュッと華月の手を握ると、フワリと春風の様に笑った。
ー了ー