第39章 視線の先、君の声が泣いている(家康)
横を擦り抜けた声
「怒られちゃう〜」
フワッと抜けた香り。
知ってる声と知ってる香り。
「…華月?」
思わず名を呼んでいた。
「え?家康⁉︎」
振り向いたのはやはり華月だった。
急ぐ足を止め、俺を見た。
「アンタ、早く帰って来いって言われてなかった?」
「だっ、だから!今、凄く急いでるのっ‼︎」
「ふーん…でも、そんな急いだらすぐ転ぶじゃん」
「え?あっ!ぁああっ‼︎」
「ほら」
「そっ、こっ、コレは家康が足を掛けるからっっ」
ちょっと出した俺の足先に引っかかって、
転びそうになった華月を俺は受け止めた。
「俺も城まで帰るから、
送っていって、あげる。手」
「え?」
「アンタ、転けたり、はぐれたりしそうだから…手、だして…」
俺は色々、理由を並べて華月の手を取った。
(…転ぶじゃん、って…送って行くから走るなって事?)
鈍い頭をフル回転させながら思っていると、
手を差し出され、
「え?」と思っている間に、
「アンタ、転んだり、はぐれたりしそうだから…手、出して…」
と、手を握られた。
冷んやりとした家康の手。
でも、夕暮れの中でも、背けた家康の顔は、耳まで赤くなっているのがわかった。