第37章 幼い恋の先(三成)
「あの子がお前の許婚だよ。
大きくなったら父と母のように一緒に暮らすのだ。
今から仲良くしなさい」
それは呪(まじな)いのようで、
妖術の言葉のようで、すぐに幼い華月を縛った。
(私はこの子とずっと一緒に居るんだ)
そう思うと、淡い恋心が芽生えた気がした。
濃い藤色の髪。
菫紫の瞳。
目元の黒子が印象を残す。
笑うと薄い唇が弧を描く。
女の子みたい。
可愛くて優しい、朗らかな。
そんな男の子だった。
月日が過ぎても、仲良しで、会えば縁側で長く話した。
蝶々を追いかけ、桜を見上げ、
鞠遊びをし、蜻蛉を飛ばした。
馬に乗り合い、ススキの揺れる河原で話をした。
手を繋いで歩き、腕を組んで歩き、茜空を見上げた。
少しずつ少しずつ、どんどん好きになっていった。
そして、大好きになっていた。
だから、
契りたいと思った。
けれど、それを戦が隔てた。