第31章 春待ちて氷柱落つー後ー(秀吉)
「あんな顔の華月初めてみた…」
呆けていたのは一瞬だった。
急足で三成と華月へ向かいながら呼びかける。
「三成、華月」
平静を装って。
笑顔で。
「秀吉様、ご苦労様です。
こちらの女性は秀吉様のお屋敷の方で間違いないでしょうか?
秀吉様にお遣いだそうです」
「ああ、俺の(処の)華月だ」
「門兵に阻まれて困っていらっしゃいました」
「そうか、ありがとうな、三成」
「いいえ、それでは華月様、また」
颯爽と歩いて行く三成をさして見送らず、
俺は華月に向き直った。
「分かったよ。
飾らせるように渡しておくな」
「はい」
華月の用事を利き、花を受け取ると華月は笑った。
でも、心の底からの笑顔ではないのはわかっていた。
平気そうにしていても、あの日、
心を閉ざしてしまった事。
そして、それは俺のせいでもあるという事。
死んだ人は生き返らない。
生き返ったら華月は
笑顔になる。
ここからいなくなる。
(全部俺じゃない)
俺は死んでしまった華月の兄貴にさえも嫉妬を覚えていた。
(嫉妬…)
それに、今頃気が付いた。
華月が他の誰かと歩くのも、
他の誰かを想うのも、
他の誰かの話をするのも…
(嫌なんだ)
それが俺の答えだった。
ようやく見つけた答えだった。