第30章 春待ちて氷柱落つー前ー(秀吉)
あれから華月は大人しくしていた。
大人しいというより無気力だ。
物憑きみたいな妖妖とした雰囲気に、
不釣り合いなほど童女のような笑顔を見せる様になった。
「秀吉さん、あの子をどうしたいんですか」
「どう…って…」
「…はぁぁ…本当に、酷い人ですよ」
「どう言う意味だ、家康っ」
たまたま華月を俺の御殿で見た家康がそう言った。
「飼い殺し」
「はっ?どうしてそうなる」
「分からないなら自分で考えて下さい」
冷ややかな眼で俺を睨んで帰って行った。
どうしたいか…
どうしたいか、なんて。
故郷に帰すわけでもない。
仕事を与へるわけでもない。
囲うわけでもない。
生きる意味がないと、
死にたいと、言った者を
ただ、ただ、生かしている俺は…
『酷い』『飼い殺し』
家康の言った通りだった。
幼少期人質として過ごした家康には自分と同じに思えたのかもしれない。
『死にたいのに生かされて、
なんの目的もなくただ無力感だけを感じて生きてきたんです…』
いつか聞いた家康のやるせない、歯痒い生い立ち。
(家康…)
そして、政宗の
『生きる意味を与へてやれば良いだろ』
の意味をようやく理解した。