第19章 君へ贈り物 (義元)
扇子と一口に言っても、種類はたくさんある。
昔から、朝廷の女達が持つような檜扇。
国外への貿易品としても名高い絹扇。
能扇、舞扇、茶席扇は茶席専用の扇子。
夏扇子、刺繍の施された刺繍扇、
白檀などの香木で作られる香扇などなど。
僕は美しい扇子を見つけた。
扇骨には透かし細工が施されて、
白藍(しらあい)の絹織物に蛍が描かれている、夏の絹扇子。
生地は透かし柄で、陽に透くと柄が見える。
(綺麗だ…)
白藍色は、朝靄(あさもや)の水辺を思わせる。
朝の早い短い時間にしか存在しない色と景色。
反対に、蛍は夜。
条件が合わなければ姿を見せない虫。
小さな灯りを点滅させながら浮遊してはすぐに消える。
(儚くて…短い…命…)
パッと輝いて消えてゆく。
僕はそんな儚い物が好きだ。
だから、その手の中から消えそうな、
美しい扇子を手にした。
(…君への贈り物に)