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第5章 ▼華ニハ蜜ヲ△ *徳川家康ルート*
降り止まぬ雨音を、ハナは家康の腕に抱かれ、聞いていた。
体は気怠いが、自分を抱き寄せる腕の温もりが、どうしようもなく心地よかった。
「雨、止まないね」
気怠い体と頭を家康に預け、東屋の中、ハナが呟く。
「ハナ、寒くない?」
「うん、大丈夫だよ」
それでも、家康はハナを温めるように膝の上で抱きしめなおす。
二人の体からは、あの香りは消え去っていた。
それでも、触れればやはり、熱を生む。
「あの香りの成分は、発汗によって揮発するんだ…だからもう、効用はないよ」
「うん…」
それからしばらく、言葉なくそっと寄り添い続ける二人。
「ねぇ…ハナ」
「うん?」
ハナの風呂敷から、残った書状を家康が取り上げる。
「今から少しの間だけ、素直になってあげるから…聞いて」
「―――うん」
目元を紅く染め、翡翠の瞳がまっすぐ見つめる。
「―――ハナが、好きだよ。たぶんあんたよりずっと…何倍も。あんたを知らなかった時間が信じられないくらい…ハナに溺れてる」
「…うんっ」
ハナの瞳から、温かな涙が一粒、煌めいた。
「だから、どこにも行かないで。ここにいて……この書状も、もう要らない」
家康の腕が御簾の外へと突き出され、その手の中の書状はすぐに雨に濡れ…墨を溶かして流れていった。
「俺のこと、信じてくれる?」
「……家康は?」
二人の視線が重なりあい、どちらともなく小さく笑う。
「仕方ないから……信じてあげる」
それはどちらの言葉だったのか…。
甘く蕩ける口付けの中、その音は優しく溶けて二人の胸に沁みこんでいった。
ーfinー