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第23章 ▲月華美人▽ *明智光秀* -拾肆-
無意識だった。
もはや、反射的と言ってもいい。
―――パシッ。
軽い音を立て、ハナの両手が、光秀の手を握りしめていた。
「…この反応は予想外だが…」
「―――…あっこれは…その、えっと…っ」
人はこれほど紅くなれるのかと思われるほどの顔をして、ハナは光秀の顔と握りしめた手を見比べた。
顎に添えていた手を握りしめられたところで、光秀が顔を僅かに寄せれば唇が触れる位置に二人の顔はある。
片手を押さえられたとしても、口付けを避けることはできないだろう。
何より、ハナの顔を見れば、答えは明らかだった。
拒否ではないなら、この手の意味は……。
「―――…あぁ」
思い当たった。
光秀の黄金の瞳が、僅かに揺れた。
『…その先は、黙っていろ…ハナ』
そう言って、拒んだのは光秀だった。
『応えてくれはしないのに、どうして…
口付けようとするんですか?』
ハナもまた、光秀を拒んだ。
あの時の、互いに抱く想いは、今この時と然程の違いも無かったろうに。
己が手を握りしめるハナの小さな柔い手を、逆に握り返してその手の甲に口付けをひとつ。
ハナに見せつけるように、落として見せた。
「光秀さん…」
やはり、同じことを思っていたのか。
ハナの瞳も、儚く揺れた。
「……お前に、応えたい」
ハナの顔をじっと見つめて、光秀の静かな声音が囁いた。
涙を堪えたその顔が、こくりと一つ、小さく頷く。
しかしすぐに顔を上げ、涙に濡れた瞳で微笑んだ。
「貴方を、愛して…いいですか?」
ハナの前髪をかきあげて、光秀は互いの額をそっと繋げた。
黄金の瞳が、ハナの瞳を優しく見つめる。
「―――…愛してくれ、誰よりも…。
それ以上に、俺がお前を愛してやる」
それ以上。
二人の間に、言葉は要らない。
証明するかのように、二人の唇がそっと触れあい、重なり合った。