第10章 100%で望む理由
くんの個性は、戦闘訓練の時にモニター越しにしか見たことがない。確か背中から白い翼を出す…飛行系の個性だったはず。俺の個性とでは相性が悪いのは目に見えてわかりきっていること。攻撃を仕掛けようとも、空へ逃げられてしまえばこちらから手を出せない。それなら…
«スタァーーーット!!»
開始の合図と同時に一気に距離を詰める。翼を出す時間を作らせないほどに。くんのお腹を抱え、このまま場外へ駆け出す。
「悪いな、くん。このまま行くぞ!」
場外へ投げ出そうとした時、目の前が真っ白に染まった。視界が悪くなり思わずくんを抱える腕が緩む。くんが発動した翼によって視界が遮られ、俺の腕から抜け出し空に舞う。しまった。空に逃げられてしまったら対応が難しい。
『危ない危ない。飯田くん速いのは知ってるけど、やっぱり実際に反応するのは無理だね~』
エンジンを使って高く飛躍することは可能だが、くんなら簡単に避けるだろう。持久戦に持ち込んで、くんが地に降りてくるのを待つか。
ぐるぐる考えているとくんはストンと地に足をつけた。翼は出したままだ。やはり飛行するには体力の消耗が激しいのか。何を考えているのかは分からないが、今俺に出来ることをするしかない。
くんに向かって突進するが、ギリギリのところで空へ逃げられてしまう。なんとかくんを捕まえることが出来れば…そう思って何度も同じように突進を繰り返す。が、その度に躱され、ふわふわと白い羽がフィールドに舞い落ちる。
「ずっと逃げてばかりで、俺のエンジンが切れるのを待っているのか?」
『違うよ、考えてるの!』
避けてばかりで攻撃を仕掛けてこない。もう一度突進をすれば、同じようにくんは飛んで回避する。
『そろそろ!』
「…これはっ!」
大きな風が吹く。それと同時にくんの翼から抜け落ちた羽が、まるで雪のようにフィールドに舞う。目くらましか。迂闊に動けば場外に出てしまう可能性がある。無数の羽がひらひらと舞い、くんの姿が見えない。
そうか。逃げていたのではなく、羽ばたかせて羽を集めていたんだ。